歯周病と全身の病気

歯周病は歯垢=デンタルプラークの中にすんでいる歯周病原菌によって引き起こされる内因感染症です。しかし、単に歯周組織だけに限られた感染症ではなく、全身の健康を脅かす決して侮れない疾病なのです。

歯周病が原因となる疾病

感染に対して抵抗力が低くなっている場合、例えば高齢者や癌、免疫不全症をもつ易感染性者においては生命の危機につながる恐れがあります。主な疾病を挙げてみます。

  • 歯性菌血症(きんけつしょう)と敗血症(はいけつしょう)
  • 細菌性心内膜炎(しんないまくえん)
  • 動脈硬化症
  • 誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)
  • 糖尿病
  • 妊娠トラブル
  • がん
  • 消化器疾患
  • 歯性病巣感染症

これらは全ていったん発症すると深刻な事態を引き起こします。妊娠トラブルについては本人だけではなく胎児にまで影響が及びます。お子様の明るい未来のためにも妊娠前、妊娠初期での歯周病への注意は大切です。

 

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歯性菌血症と敗血症

歯周病原菌をふくむ口腔内細菌が血液中に侵入した状態をさします。
細菌が血液に侵入する機会は意外と多く、健常者においても口腔常在細菌が歯肉の上皮を貫通して血流中に侵入しますが、免疫をはじめ様々な防御機能により速やかに駆逐されて一過性の菌血症にとどまります。

 歯周病がある場合には、歯周病原菌が大量に存在するため血流中に侵入してくる細菌数も増大します。また、歯周病は歯肉が炎症を起こしているため常に出血しやすい状態になっています。そのため歯磨き時や咀嚼時、さらに食いしばり時などでも毛細血管が切れて出血し、そこから生きた細菌が血液中に侵入して菌血症をおこしています。

【こんな細菌が血液中に】 

 

治療として行う抜歯、外科処置などの観血処置時や歯石を除去するスケーリング時などの歯科処置においても菌血症が起っています

血流中には細菌だけではなく、細菌の産生物や生体の免疫反応・炎症反応の生成物なども入り込み全身を回ることになります。細菌の産生物としては外毒素、内毒素、各種の酵素、多糖体などですし、反応生成物としてはプロスタグランディン、各種のサイトカイン(インターロイキン、腫瘍破壊因子、etc)などです。

菌血症からさらに、血液中の細菌が増殖した場合には敗血症と呼びます。血液が細菌だらけの状態といえます。細菌感染症が全身に波及しますので無治療ではショックや多臓器不全などから早晩死に至ることが多い疾病です。易感染性や体力低下を背景としていることが多く重篤です。

 


参考ですが、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)は健常な状態からも敗血症を起こしてしまうことがあります。

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細菌性心内膜炎

川崎病やリウマチ熱経験者、母親が妊娠早期に風疹に罹患した場合の子供など心臓弁膜に障害のある方に起こりやすい疾病です。

 口腔内バイオフィルムから遊離した細菌が心臓弁またはその周辺組織に付着して増殖して起こる感染症で、歯性菌血症を繰り返すと細菌の付着する機会が増大し、リスクが高まります。敗血症へと進行することもあります。

 歯周病原菌などは付着能力が強く、バイオフィルム形成能力も高いため、心内膜に付着してバイオフィルムを形成してしまうと抗菌薬の効果が期待できなくなってしまいます。
歯周病原菌の代表であるアクチノバシラス アクチノマイセテムコミタンス

(Actinobacillus actinomycetemcomitans)は白血球を攻撃する外毒素を産生するので、血流中に侵入しても容易に白血球に殺菌されることなく、心内膜に付着できます。同じくポルフィロモナス ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)は細胞内侵入性があり付着能力が強いため細菌性心内膜炎の原因細菌になります。

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動脈硬化症

動脈硬化症は高脂血症や糖尿病、高血圧、生活習慣、喫煙、食生活、ストレスなどによる多因子性疾患ですが、その因子の一つとして歯周病があげられます。歯周病原菌の動脈硬化症への関与は動脈硬化部位から歯周病原菌のDNAが検出されることからも明らかです。

 動脈硬化症は動脈が狭窄し最終的には動脈の血流が遮断されて酸素や栄養が重要組織にとどかなる疾病です。心冠状動脈で起これば心筋梗塞、脳血管で起これば脳梗塞を引き起こします。歯周病患者では心臓血管系疾患の発症リスクが50150%程度高いとする報告が多いようです。

血流中に細菌が存在している菌血症において、血管の内皮細胞への歯周病原菌の直接侵入や内毒素の血管障害作用により血管内壁に炎症が起こります。すると血管内皮細胞に接着分子が生じ白血球を集積してさらに炎症が拡大します。

集積した白血球は内皮細胞の隙間に接着分子を通って侵入し、歯周病原菌の内毒素などで活性化されたT細胞の指令によりマクロファージへと成熟分化します。

 

内毒素はマクロファージをも活性化し、リポタンパクを取り込み脂肪滴で満たされた泡沫細胞へと分化させます。泡沫細胞はコレステロールを蓄積し、内毒素の血液凝固作用、炎症の進行による細胞障害、血管内壁プラーク形成などにより粥状動脈硬化巣が成長します。

歯周病由来の炎症性サイトカインがマクロファージを活性化して放出されるタンパク質分解酵素(コラーゲナーゼ)によって泡沫細胞が崩壊すると血管の血液が通るスペースが狭窄してしまいます。

歯周病原菌ではアクチノバシラス アクチノマイセテムコミタンス(Actinobacillus actinomycetemcomitans)、ポルフィロモナス ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、トレボネーマ デンティコーラ(Treponema denticola)などが血管内皮細胞に直接侵入できることがわかっています。歯周病原菌だけではなく、外毒素、内毒素、各種の酵素、多糖体、炎症反応で生じるプロスタグランディン、各種のサイトカイン(インターロイキン、腫瘍破壊因子、etc)などが様々な場面で動脈硬化症に関与しています。

 

歯周炎の人はそうでない人に比べて脳梗塞などの虚血性疾患が多く、血中コレステロール値が高いことが明らかになりました。歯周病を治療することで血中コレステロール値が低くなることも明らかになっています。

 

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誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)

 口腔・咽頭の細菌が知らないうちに肺に吸引されて起こる肺炎です。高齢者や寝たきり老人など日常生活動作が低下した場合に多く見られ、嚥下反射、咳反射の機能低下、気道など呼吸系粘膜における微絨毛の活動低下、肺における感染防御能力の低下などが背景にあります。

 気管支や肺にまで到達した細菌は、通常では肺胞マクロファージなどに消化されて殺菌されます。肺胞マクロファージの感染防御能力が低下していると細菌は増殖してやがて肺炎を発症させます。

 誤嚥性肺炎は歯周病原菌を中心にした口腔内常在細菌による混合感染が多いのです。そのため歯周病があると慢性呼吸器感染症のリスクは極めて高くなります

 さらに歯周病原菌の産生するタンパク質分解酵素は咽頭粘膜などを保護しているタンパク質を分解してウィルスレセプターを露出させます。ここにウィルスが存在すると感染が導かれてしまいます。

 誤嚥性肺炎は摂食障害によっても起こります。食物そのものが異物となって肺炎を起こす場合や、異物とともに入り込んだ細菌の増殖によってさらに重篤な肺炎を起こす場合もあります。

 

健常者の約50%は睡眠中に誤嚥を起こしており、歯周病原菌をふくむ口腔内細菌が肺に入り込む機会は意外に多いのです。

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糖尿病

慢性歯周炎と糖尿病はたがいに影響を及ぼしあうことによって、両疾患を悪化させているのは明白な事実となっています。両疾患の発生メカニズムには共通点があり、慢性炎症の存在が深く関与しています。糖尿病も歯周病も生活習慣が関わる多因子疾患であり、全身の状態と密接な関係を持っています。

 したがって歯周病を治療することにより糖尿病の症状の改善なども示されています。糖尿病はインスリン分泌欠如とインスリン抵抗性の増進の組み合わせが発症の基盤となっています。

 歯周病があると内毒素の作用やその他の経路からマクロファージなどが活性化され、インターロイキン1(IL-1)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)などの炎症反応を引き起こす物質を産生して組織の炎症を進行させます。IL-1はインスリン分泌細胞を障害し、TNF-αはインスリンを分泌する膵臓のβ細胞を破壊し、インスリンの受け皿となる細胞を障害する作用があります。

逆に糖尿病があると免疫機能の低下、コラーゲンの合成抑止、微小血管障害、歯根膜細胞の機能異常などを生じ、最終糖化産物AGEは好中球などの機能を低下させマクロファージなどの活性化を招きます。歯周組織に炎症を促進させる要因が非常に多いといえます。

 

歯周病の治療が成功すると歯周組織から歯周病原菌が減少すると同時に歯周局所のIL-1やTNF-αなどの炎症性サイトカイン生産量も減少します。その結果血清中のIL-1やTNF-αも減少し、最終的に血糖値が下がるということになります。

 

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妊娠トラブル

歯周病がある場合、早産や低体重児出産などの妊娠トラブルを起こしやすくなります。また妊娠により、浮腫があって出血しやすい妊娠性歯肉炎を起こしやすくなります。

 早産の主な原因の一つは歯周病のような慢性感染症です。歯周病から歯性菌血症となり子宮内へ感染すると、歯周病原菌の内毒素などが胎児の成長を阻害します。さらに歯周病原菌やその内毒素により様々なサイトカインが産生され、最終的に羊膜内でプロスタグランディン合成を起こします。プロスタグランディンは陣痛促進剤と同じ作用を持ち、直接子宮を収縮させます

 歯周病原菌であるプレボテーラ インターメディア(Prevotella intermedia)は卵胞ホルモン(エストラジオール)や胎盤ホルモン(プロゲステロン)を栄養源として利用できます。

【歯周病原菌】

妊娠して女性ホルモンが大量に産生され血液から歯肉溝浸出液にでてきますと、プレボテーラ インターメディア(Prevotella intermedia)が増殖して妊娠性歯肉炎を起こします。炎症により浮腫と出血が生じさらに血液を好むポルフィロモナス ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)などが増殖して菌血症を生じやすくなります。

 

低体重児出産の母親と正常体重児出産の母親のプロスタグランディンとインターロイキン1の量を比較すると低体重児出産の母親ではどちらも約2倍に増加していました。炎症性サイトカインは直接血流中に侵入するだけでなく、血流中で誘導され生産されるので子宮からはなれた部位にある歯周病も胎児にとっては脅威となります。

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がん

歯周病によりがんのリスクが高まる可能性があることが最近示されました。歯周病歴のある男性医療専門家を対象にした長期研究で、がんを患う可能性が全体的に約14%高いことが判明しました。

論文では「喫煙その他のリスクロウ院を考慮した上でも、歯周病は肺、腎臓、膵臓、血液のがんのリスクの増大に大きな関連性があった」としています。

(ロイター通信の記事より転載)

 

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消化器疾患

胃炎や胃潰瘍、胃がんのリスク因子としてピロリ菌(Helicobacter pylori)があげられます。ピロリ菌は胃の上皮細胞を障害する外毒素を産生し内毒素も持ちます。さらに病原性に関与するタンパク質も産生し、免疫病理学的反応を起こしながら病原性を表すと考えられています。

 歯周病原菌のカンピロバクター レクタス(Campylobacter rectus)はピロリ菌と共通するさまざまな抗原をもっています。胃粘膜のピロリ菌と歯周ポケット内のカンピロバクター レクタスがそれぞれ抗体産生を誘導して、その抗体が交差して共通な反応性があるとすると一方で作られた抗原が他方で免疫反応を起こす可能性があります。

 

その結果、免疫複合体による体液性免疫反応とそのアレルギー反応がそれぞれの疾患の発端になると考えられます。

 

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歯性病巣感染症

病巣感染症とは限局性の慢性感染病巣が原因となって遠隔の臓器に二次疾患を起こすものです。このうち歯に現病巣がある場合を歯性病巣感染症といいます。
二次疾患として糸球体腎炎、リウマチ性関節炎、亜急性心内膜炎、心筋炎、神経炎、光彩毛様体炎、ループスエリテマトーデス、皮膚炎、膿胞症、敗血症、糖尿病、循環障害、細菌性心内膜炎、貧血などがあります。

 原病巣の細菌、菌体成分、菌の代謝産物などが血流にのって遠隔地に運ばれ、さらに臓器や組織に蓄積され、またそれらに対する異物排除機構として抗体産生が起こります。結果として生じる体液性および細胞性免疫応答とそのアレルギー反応が二次疾患の原因と考えられています。

 歯周病原菌の多くがストレスタンパク質を産生します。ポルフィロモナス ジンジバリス(Porphyromonas gingivalis)、プレボテーラ インターメディア(Prevotella intermedia),nadonosannseidaアクチノバシラス アクチノマイセテムコミタンス(Actinobacillus actinomycetemcomitans)などの産生するタンパク質はその抗原性で抗体産生を誘導します。

 

歯周病は典型的な慢性感染症であり、その原因細菌は付着能力やバイオフィルム形成能力、内毒素などさまざまな病原因子を持っており、歯周病原菌による菌血症は遠隔地で歯性病巣感染症を引き起こす能力が高いということができます。

 

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