歯周病の治療

歯周病治療は削って詰めるむし歯の治療と違い、処置に対する歯周組織の反応の経過を見ていく治療です。処置に対する反応は症状によっても、人によっても異なりますので、治療期間については言及できないのです。生活習慣病の一つであるということは「この状態が治癒」とはならないということでもあります。
歯周病治療はメンテナンスを含めると長期間にわたるプログラムです。治療を続けていく上で大切なことは、性急に結果を求めず安定した状態を目指して歯科医師とともに頑張っていただくことでしょう。私たちは、患者さまご自身の身体を大切にしていただきたい、と考えています。
歯周病治療の方法は多種多様に存在します。それぞれに利点欠点があり、経済的負担、肉体的負担、精神的負担、時間的負担などまちまちです。患者さまの状況において選択可能なあらゆる治療方法を十分説明した上で患者さまご自身に決定していただきます。
歯周病治療の多くは保険適応の範囲内ですが、新しく優れた治療方法は保険診療の適応外になってしまいます。歯科医師と相談して納得した治療方法を決める必要があるでしょう。
治療上重要な歯周病の特徴
歯周病の特徴や特殊性をふまえた治療こそが適切な歯周病の治療といえます。重要な特徴をあらためてチェックしておきましょう。
歯周病の特徴
歯周病は歯周病原菌による歯周組織の感染症です。
家族親子間・夫婦間の唾液感染、ピンポン感染が起きやすく再感染しやすい病気です。
30代を超える世代で約8割がかかっているといわれる生活習慣病です。
多数の局所因子、全身因子、環境因子などが複雑に関与し合う多因子疾患です。
喫煙、肥満、糖尿病、ストレスなどは歯周病を進行させる因子です。
心臓病、動脈硬化、糖尿病など様々な全身の病気との相互的な関連性があります。
歯周病に関連する全身の病気の引き金は歯周病原菌と生成物が血流中に侵入していく菌血症です。
歯周病原菌の特徴
歯周病原菌は歯垢=バイオフィルムの中に生息し、免疫防御機能、抗菌薬に抵抗性があります。
歯垢が石灰化した歯石は、内毒素を含む細菌の身体と無機塩類からなっています。
内毒素は全ての歯周病原菌が細胞膜にもっており、様々な為害作用があります。
歯周病と免疫反応の特徴
自然免疫の主体は好中球による貪食(細胞内に取り込んで消化する)作用です。
好中球は次亜塩素酸(HClO)を生成し、細菌の細胞膜を破壊して殺菌します。
獲得免疫が発動してもバイオフィルム内の細菌を排除できません。
獲得免疫は過剰で不適切な免疫反応(アレルギー)を生じ、組織を破壊します。
マクロファージが活性化すると炎症性亢進物質を放出して組織が破壊されます。

歯周病治療の目標

多因子疾患である歯周病の治療では、数多くある病原因子をひとつひとつ改善して、歯周病がそれ以上進行しないようにする進行防止治療が標準治療となります。歯周病の特殊性をふまえた治療の具体的な目標は以下のようになります。
菌血症の予防(全身の病気の発症のリスクを抑える)
血流中に細菌や細菌の産生物、生体の免疫反応・炎症反応の生成物などが入り込み全身を回ることを菌血症といいます。様々な全身の病気の発端となったり悪化をさせたりするので、これを抑止して慢性感染病巣を駆逐します。
バイオフィルムの破壊(細菌の防御機構の無効化)
歯周病原菌は歯垢=バイオフィルムの状態で歯面に付着しています。バイオフィルム内の歯周病原菌は生体の免疫防御反応(白血球などの攻撃)から免れたり、消毒剤や抗菌薬がききにくかったりします。バイオフィルムを破壊することで適切な免疫反応を促します。
歯周病原菌の量と質の改善(為害性物質の絶対量と生産能力の減少)
歯周病は歯周病原菌のよる歯周組織の感染症です。歯周病原菌の細菌数を根絶寸前まで減らして(根絶は理論上不可能とされています)、強い病原性を持つ歯周病原菌中心の構成からそうではない構成に改善することにより、為害性物質の絶対量を大幅に減らします。
内毒素による過剰な免疫反応をリセット(適切な免疫反応の復活)
内毒素によるマクロファージや破骨細胞の過剰な免疫反応を止めなければなりません。内毒素は歯周病原菌の細胞膜の一部として存在しますので、まず歯周病原菌の細菌数を減らす必要があります。さらに、歯石の有機成分は菌体で内毒素を含んでいますので、歯石の徹底した除去が不可欠です。歯周組織の破壊は過剰な免疫反応によるところが大きいので、これをリセットして適正にキープします。
具体的な診療
歯周病治療の目標を達成するための診査、診断、治療を見ていきましょう。
診査

綿密な診査を必要に応じて行い、歯周病の実態をつかみます。
診査項目
口腔内写真撮影、 パノラマレントゲン診査、 デンタルレントゲン診査、 高解像度位相差顕微鏡による診査、 歯周ポケット診査、 歯槽骨の吸収程度、 歯肉の炎症状態、 歯の動揺度、 歯肉の腫れ、 浮腫、 排膿、 出血ポイント、 プラーク、 歯石、 着色、 咬合状態など。
診断と治療の方針説明

現在の状況及び診断について説明いたします。歯周病についての症状や原因、今後の経過予測、具体的に必要な治療、生活についての提言、ホームケアの必要性とその方法などをお話しします。
応急処置

必要な場合に行います。歯肉が腫れている場合の切開、排膿、かみ合わせの調整、投薬などです。強い疼痛、腫脹など急性の症状が大きい時には対症療法(症状を和らげる治療)のみを行い、原因除去療法は慢性期に移行してから行うことが原則になります。
スケーリング

歯肉縁上の歯石を除去します。歯周病の原因因子のうち、歯周病原菌、歯垢、歯石に対するアプローチです。まずは歯肉のラインより上の部分を行います。歯肉のラインの下の歯石も同時に全て除去したいところですが、組織内や毛細血管内に歯周病原菌や毒素を送り込む結果、炎症が急性化しやすいという理由で保険診療では行いません。 歯石は石灰化した歯垢で自分では除去できません。超音波振動を利用したスケーラーなどを用いて除去します。スケーリングは歯石に含まれている内毒素を取り除くために全ての歯に対して行いますが、一回の治療で全ての歯のスケーリングを行うことは保険診療では事実上認められていません。 スケーリングをすることによりブラッシングがしやすくなります。歯垢=バイオフィルムは歯面をこすることで除去できます。ホームケアが重要になります。
再スケーリング
スケーリングが全ての歯において終了後、必要に応じて行います。スケーリングによって歯肉の腫れが引いた場合に、歯肉縁下にあった歯石が歯肉縁上に露出してくることがあります。 スケーリングだけで十分健康を取り戻している場合には歯周治療はメインテナンスに移行します。
スケーリング・ルートプレーニング(SRP)

歯肉縁下の歯石を除去します。歯垢や歯石によって汚染された歯根の表面を滑沢に仕上げます。内毒素は強固に歯面と付着しているため歯面の一部も除去します。
歯周外科手術

代表的な歯周外科手術 としては、歯肉を切って歯槽骨からはがし、直視下にてSRPを行い、歯肉を戻して縫合する手術があります。悪いところを直接目で見て徹底的に取り除く手術です。 歯周外科手術はこの他にもさまざまな術式があり,症状に応じて使い分けられます。
メインテナンス

歯周病は治療終了後の方が重要です。歯周病治療により歯周病原菌と免疫防御機能とのバランスをとりもどしているはずなので、これを維持していくことが大切です。毎日のホームケアと規則正しい生活,歯科医院にて行う定期検診とプロフェッショナルケアが必要です。 歯がある限りメインテナンスは一生続けていくものだと考えていただいたほうがよいかと思います。歯周病は多因子疾患ですから、全身因子と環境因子の改善に努めることも非常に大切なことです。



